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2016年4月6日付 Yahoo!ニュース 【国の代理人を担当したことのある裁判官が「忌避」された…どんな意味があるの?】

2016.04.06

メディア掲載

生活保護基準の引き下げに反対する受給者たちが起こした訴訟で、金沢地裁(田中聖浩裁判長)は3月31日、同じ種類の訴訟で国の代理人をつとめていたことを理由に、原告側が申し立てた陪席裁判官の忌避(きひ)を認める決定をした。

この裁判は、国や自治体を相手取って、生活保護費の引き下げ処分の取り消しを求めて全国で起こされている集団訴訟の一つで、原告は850人以上。全国26の地裁で訴訟が展開されている。

そのうちの一つ、「さいたま地裁」の裁判で、かつて国側の代理人をつとめていた人物が、昨年4月から「金沢地裁」の裁判官になり、生活保護集団訴訟の審理に加わっていたことについて、原告の代理人グループの弁護士が「公正な裁判ができない」として、裁判官を訴訟手続から外す「忌避」を申し立てていた。

陪席をつとめる川崎慎介裁判官は、2015年3月まで法務省に出向し、国の代理人としてさいたま地裁の同種訴訟を担当。同年4月に金沢地裁へ赴任して、今回の訴訟を引き継いでいた。決定書によれば、金沢地裁は、川崎裁判官が「国の代理人として中心的に関与した」と認定。「公正で客観性のある裁判を期待することができないとの懸念を抱かせる十分」と判断した。

「忌避」というのはどんな制度なのか。今回の決定についてどう考えればいいのか。元裁判官の片田真志弁護士に聞いた。

裁判の公正に対する信頼を守るための制度

「当たり前のことですが、裁判は、公平中立の立場から公正に行われなければなりません。

たとえば、裁判の被告が、担当裁判官の実の父親である場合、『裁判官が被告に肩入れして不公正な裁判をするのではないか』という不安が生じるでしょう。

このように、裁判官が担当事件の当事者などと特別な関係を持つ場合に、裁判の公正に対する信頼を保持するためにあるのが、除斥、忌避、回避という制度です」

片田弁護士はこのように述べる。具体的には、どんな制度なのか。

「『除斥』というのは、法律に定められた事情(例えば、裁判官が当事者の4親等内の血族)がある場合に、裁判官がその担当事件から排除される制度で、その基準はハッキリしています。被告が父親という上の事例では当然に裁判官は除斥されます。

『忌避』は、除斥の基準には直接あてはまらないものの、裁判の公正を妨げるべき事情がある場合に担当事件から排除される制度です。この2つはいずれも裁判で結論が出されますが、その裁判には、問題となっている担当裁判官は参加しません。

これに対し、『回避』は、担当裁判官自身が、除斥・忌避の理由があると考えた場合に、自発的に担当から外れることをいいます。

最近では、2009年8月の衆院選小選挙区の『1票の格差』を巡り、最高裁大法廷(裁判長・竹崎博允長官)に回付された訴訟のうちの1件で、被告(香川県選挙管理委員会)の代表者が竹崎長官の実兄であったことから、竹崎長官が回避したことがニュースになりました」

「ほとんどないと言ってよいほど、珍しいこと」

訴訟の当事者が「不公正な裁判をされるかも」と考えて、忌避を申し立てれば、認められる可能性は高いのだろうか。

「いいえ、忌避が認められる事例は、ほとんどないと言ってよいほど、珍しいことです。

例えば、一方の当事者が前に別の事件で同じ裁判官から敗訴判決を受けたとか、裁判官と相手方の代理人弁護士が大学以来の親しい友人であるといった程度では忌避は認められません。

裁判官は、職務上、公正に裁判を行う義務を負っており、もしその義務に違反すれば懲戒されますし、裁判の結論が誤っていれば上訴によって是正されます。

裁判の公正は、そうした他の制度によっても保障されているといえるため、忌避によって裁判官を排除するのはよほどの事情があるときに限られているのです」

「裁判官の経歴にも注目が集まりやすくなっている」

今回のケースは、なぜ忌避が認められたのか。

「一般的には、裁判官が過去に訟務検事(国の訴訟代理人)として同種訴訟に関与したことがあったとしても、それだけでは忌避は認められません。通常は事件が異なれば争点も証拠も異なりますし、訟務検事としての関わりも限定的な場合が多いからです。

今回忌避が認められたのは、両事件の争点の共通性が大きかったことに加えて、川崎裁判官が訟務検事として国の立場で訴訟活動を行っていた関与の程度が、よほど大きかったからだと思います。

忌避は、裁判の公正に対する信頼を守るために大切な制度です。特に最近は、原発や選挙をめぐる訴訟など、社会的影響の大きな訴訟が増えており、そうした事件を担当する裁判官の経歴にも注目が集まりやすくなっています。

今後もその風潮はさらに高まっていくのではないでしょうか」

片田弁護士はこのように述べていた。

(弁護士ドットコム ニュース編集部)

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